ブログ 2019年01月7日
企業が永く経営を継続して行くためには、老舗と言われる企業でも、常に変化し続けています。どのような企業においても、常に新しい挑戦をし続ける事は生き残る為の必須課題と言って良いと考えております。経営者のみなさまは、常に新たな挑戦を決断する事を求められているはずです。そして同時に、決断力の早さも求められます。
然しながら、新たな挑戦を目の前に控えた場合、失敗した時のリスクを考えて、リスクをゼロにする道をどんどん模索し、結果的に時が経過していく事は往々にしてありがちです。
真のリスクマネジメントとは、リスクをゼロにする事ではありません。
私が製鉄所に勤めておりました頃の話で恐縮です。
30年程前ですが、当時製鋼部門のエンジニアでありました私は、
『鋼の精錬において、真空脱ガス槽内で酸素上吹きをする事により、極低炭素鋼を迅速に溶製する技術』と言う内容の実験計画を立てました。
この実験計画を実際の製鋼工場で実施するためには、数多くの上役に承認のサインをもらわないといけなかったのですが、一人一人の上役にこの実験計画書の承認をいただく際、ほとんどの方から“非常識な実験だ!”、“お前は馬鹿か!”などと言われ、何日もサインをいただけずに、本当に難儀いたしました。
一人一人の上司との口頭での戦いに勝たなければ実験ができないため、まだ一度もやってもいないこの技術の可能性について、昼夜問わずひたすら関連文献など漁って自分の中で論理を構築し、全ての上司を論破して、実験まで漕ぎつけました。
今にして思えば、あの難儀さはその後の自分のエンジニアとしての姿勢に影響を与え、これまでまっとうに働く事が出来た礎になっております。感謝しかないですね。
このテーマはその後実績を重ね、自分の論理を超えた成果を上げる事が出来ました。確立した技術はやがて、“KTB法”として、世界30余りの製鉄所で採用される技術となりました。この時書いた特許が評価され、社外表彰では唯一、全国発明表彰で皇族の御前で内閣総理大臣賞を頂戴する事が出来、私の生涯でもかけがえのない良い思い出になっています。
時が経ち、その後自分も人の上に立つ身となり、心がけて来たことは、“異質の発想を大切に育て、チャンスを与えること” です。
もちろん限られた経営資源を無駄にする事はできませんが、上司として部下にチャンスを与えないのなら、もはやリタイアの時です。
少し飛躍しますが、この経験から思うことは、
「真のリスクマネジメントとはリスクをゼロにする道を探すことではなく、経営資源を投入するに際して、どこの部分にどれ程のリスクをとるかを、ひとつひとつ決断していくことに他ならない」と思っております。
新たな挑戦にリスクがないことはあり得ず、石橋を叩き続けて、やらせなければ、前人未到の成績やOnly1技術など、未来永劫得られるべくもありません。
上司がチャンスをくれれば、部下にもスイッチが入り、目標達成のため、あの手この手尽くして努力し続けるでしょう。そうすれば万が一、目標に一歩及ばなくても、その部下の心には全力をかけた満足感が残り、職場には人が育つ環境が得られます。
血の通った人間関係と、可能性のある組織は、そこから始まり成長していくものと考えております。